敬愛する匠(たくみ)に会いたくて、滋賀県彦根市を訪ねました。
そう、ここは「近江上布」で知られる麻織物の産地です。

(後ろ姿は「匠」ご本人。先に見える2階建てが彼の工場です)

滋賀の地に降り立つのは、店主にとって初めてのこと。
JR琵琶湖線・能登川駅から匠ご夫妻のご案内で職場へ・・

びわ湖の畔(ほとり)は秋の景色が広がっていましたが、
吹く北風は冷たく「冬はすぐそこまで来ている」と感じます。

大西新之助商店。
いま全国にファンが増え続けている「新之助上布」は、歴史を積んだこの建物から送り出されるのです。

匠はこちら・・大西實さん、72歳。
父・大西新之助さんの後を継ぎ、麻織物を極めてきた伝統工芸士さんです。

店主の経験から言えること・・ 「強面(こわもて)は腕利き職人の証」
大西さんもまさにそのタイプです。
こだわってきた「やり方」「考え方」も、決してぶれることはありません。

貴重な「手織り」の作業を見せていただきました。
ゆっくり、ゆっくり、麻糸をくぐらせていく作業・・

染めた糸を型通りに合わせていくには、たっぷり時間がかかります。
諸々の作業を入れると、一反完成するのに「一か月は超える」とのこと。
味わい深い手織りの本麻が、それなりの価格になるのは頷けます。

そんな頑固者(誉め言葉)の職人を支えてきたのが奥さまです。
辛かった過去を笑顔で語ってくれる奥さま・・
しかし、裏方の仕事を続けてきた手のしわが、大変な苦労を重ねて来られたことを物語っています。

現在の奥さまのお仕事は、織機にかける前の糸の準備。

こちらは人気の綿麻生地で使われるシルケット綿。
匠が 「これしか使わない!」とこだわる良質な糸です。

品質はけっして落とさず、価格は上げず、という信念は素晴らしいモノがありますが、
奥さまのおっしゃる「ご苦労」も分かる気がします。

機械織は、この年代物のマシーンが頑張っています。
現在、工場には同じ規模の織機がもう一台。
合計2台が稼働しています。

見えているのは反物3本分の縦糸。
ここに横糸を乗せたシャトルが往復して織っていきます。

機械とはいえ、低速タイプ。
大量の洋服生地を織る高速織機とは比べ物にならないほどゆっくり織り上げます。
そのことで、手触りの優しい生地が出来上がるのです。

匠いわく、「どんなに頑張っても、この一台で織れるのは一日6反かな・・」
それだけ・・なんですね。

悩ましいのはマシーンのメンテナンスです。
この織機の製造メーカーは、愛知県の「岩間織機製作所」。

ネットで検索したのですが、この会社はすでに織機の製造はしておらず、
現在は車の部品メーカーとして存在しています。
時代の流れですね。

ですから交換部品も手に入らず、数少ない修理屋さんがなんとか面倒を見てくれるのだとか。
その修理屋さんも高齢だそうで・・匠にとって悩みの種は尽きません。

そんな頑張り屋のマシーンが織り上げた反物がこちらです。
深~いお話を窺ったあとでこの子たちに出会うと、感じるものが違いますね。

「一反ずつ糸を替えて織る。 同じものは作らない」というのが新之助上布のこだわり。
似たような配色の反物があっても、それぞれの表情は微妙に違うのです。

特に注目していただきたいのは「綿糸と麻糸の組み合わせ方」です。

最近「綿麻浴衣」と題した安価な浴衣が出回っていますが、
そのタグを見ると「綿85% 麻15%」と表記されているものが多いと思います。

これは綿と麻をミックスさせる「混紡」という糸を使用しているもので、
綿麻の比率は糸の部分によってバラツキがあります。

その点、新之助上布の綿麻は混紡はいっさい使用していません。
縦は綿糸だけを!
横は麻糸だけをしっかりと打ち込む!
その結果、どの部分をとっても「綿45% 麻 55%」という安定した生地が生まれるのです。

これは品質の良さに露骨に現れます。
生地の風合いが違うことはもちろんですが、
違いは「洗濯を繰り返した時」に分かります。

店主の奥さんも新之助上布の愛用者ですが、
「何度洗ってもしっかりしていて崩れないのよね~」と申しております。

「長く使って欲しい」という匠の想いが、形になって表れているのです。

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